就業規則とは

就業規則とは、使用者が職場での労働者の労働条件や服務規律などについて定めた規則です。労働基準法第89条に定めがあり、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければなりません。手続きをしていない場合は、同120条で30万円以下の罰金になることが規定されています。

また常時10人以下の労働者の事業所でも、就業規則の作成・届出は法律上の義務ではありませんが、整備しておくことを推奨します。

就業規則の作成業務については、社会保険労務士法第2条1項1号により、社会保険労務士の独占業務とされております。(弁護士も社会保険労務士の業務を行うことはできますが、就業規則を専門で対応しているケースは少ない状況です)就業規則を会社で作成することもできますが、近年増えてきている労働トラブルを未然に防ぐようなきちんとした就業規則を作成するためには、専門家である社労士に依頼することが安心と考えます。

なぜなら、就業規則を見てみると、実態に合っていなかったり、作成していなかったり、法改正に対応していなかったり、正しく運用できていなかったりするケースがよくあります。就業規則は、ただ必要な事項を記載したものを作成しておけばよいわけではありません。いざと言う時のトラブルに機能できる条項の記載や、手続きが必要です。

厚生労働省で公表している、「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」においては、総合労働相談件数が124万2,579件で、14年連続で100万件を超え、高止まり傾向にあり労働問題への関心が高いことを示しています。このような状況が続いているため、リスクに備えることが会社経営には重要となります。

「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」 

実務の現場に近い、TAIYO社労士事務所において以下で、就業規則の説明をいたします。具体的な相談をしたい方は以下のお問合せからご連絡ください。

就業規則作成の意義

就業規則を作成するメリットは、以下のようなものが挙げられます。

・ トラブル発生の事前防止
・ 事務処理負担の軽減
・ 社員満足度の向上
・ 助成金の受給資格要件の充足
・ 内部統制の構築(IPO審査)
・ 法令順守
・ 職場秩序や企業利益の維持

就業規則の法的効力と判例

就業規則を作成するうえで、意識すべきポイントは効力関係と判例の理解です。

【効力関係】
下記の優先順位に沿って、下の順位が定める部分が上の基準に反するものは、基本的に無効となる関係となります。
つまり就業規則の場合は、労働協約や法令に反する規定については無効となる可能性があるので注意が必要です。

法令(労働基準法等) > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約

【判例】
では、法律に反しない限り、会社のルールが部分社会のものとして就業規則で自由に決めることができるかというとそうではありません。

労働契約法は、就業規則が従業員との雇用契約の内容になるためには、就業規則で定められた労働条件に「合理性」がなければならないとしています(労働契約法第7条)。そのため、就業規則も判例による制約を受けることになります。

例えば、以下のような事例があります。

【参考1:副業・兼業に関する裁判例】
■ マンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)
【概要】
運送会社が、準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことについて、後2回については不許可の理由はなく、不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容(慰謝料のみ)された事案。

【判決抜粋】
労働者は、勤務時間以外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり、使用者は、労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許され(ママ)なければならない。もっとも、労働者が兼業することによって、労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり、使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから、このような場合においてのみ、例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。

■ 東京都私立大学教授事件(東京地判平成20年12月5日)
【概要】
教授が無許可で語学学校講師等の業務に従事し、講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず、解雇無効とした事案。

【判決抜粋】
兼職(二重就職)は、本来は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるから、兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である。

■ 小川建設事件(東京地決昭和57年11月19日)
【概要】
毎日6時間にわたるキャバレーでの無断就労を理由とする解雇について、兼業は深夜に及ぶものであって余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、社会通念上、会社への労務の誠実な提供に何らかの支障を来す蓋然性が高いことから、解雇有効とした事案。

【判決抜粋】
労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。しかしながら、・・・(中略)・・・兼業の内容によつては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく、したがつて、同趣旨の債務者就業規則第三一条四項の規定は合理性を有するものである。

※ワンポイント「副業・兼業が制限できる場合」
(1) 労務提供上の支障がある場合
(2) 企業秘密が漏洩する場合
(3) 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
(4) 競業により、企業の利益を害する場合 


【参考2: 懲戒処分に関する裁判例】
■ フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日)
【概要】
就業規則に基づき労働者を懲戒解雇したが、懲戒事由に該当するとされた労働者の
行為の時点では就業規則は周知されていなかった事例で、就業規則が拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要するとして、懲戒解雇を有効とした原審を破棄し、差し戻した。

【判決抜粋】
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(国労札幌支部事件)。そして、就業規則が法的規範としての性質を有する〈秋北バス事件)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する。

※ワンポイント「懲戒処分の有効要件」
(1) 就業規則に懲戒事由が明記されていること(前提として、労働者への周知が必要)
(2) 懲戒事由に該当する事実の存在と認識
(3) 懲戒処分の種類・量定が社会通念上相当であること
(4) 懲戒処分の適正手続きがあること

就業規則の内容

就業規則は、以下の内容を記載することが必要となります。

1. 絶対的必要記載事項

就業規則に必ず記載しなければならない内容

2. 相対的必要記載事項

会社で制度を定めた場合には必ず記載しなければならない内容

3. 任意的記載事項

内容は、全て使用者の自由とされています。(公序良俗、法令に反するものでなければ何を記載してもかまいません)

絶対的必要記載事項

1始業時刻
2終業時刻
3休憩時間
4休日
5休暇
6労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
7賃金の決定、計算の方法
8賃金の支払の方法
9賃金の締切り及び支払の時期
10昇給に関する事項
11退職に関する事項、解雇事由

相対的必要記載事項

1退職金制度を設ける場合は退職金に関する事項
2賞与や最低賃金額の定めをする場合は、これに関する事項
3従業員に食費、作業用品その他の負担をさせる場合は、これに関する事項
4安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
5職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
6災害補償や業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
7表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
8その他、事業場の全従業員に適用される定めをする場合においては、これに関する事項

任意的記載事項

以下は、一般的な記載内容となります。

1服務規律に関する事項
2休職に関する事項
3採用(試用期間)に関する事項
4異動に関する事項
5その他、適用範囲や従業員に損害賠償を求める場合に関する事項など

モデル就業規則

就業規則については、厚生労働省のホームページに「モデル就業規則」が掲載されております。
モデル就業規則は、個別の会社事情に沿ったものではないため注意が必要ですが作成の参考にすることができます。

【モデル就業規則の規定例】令和3年4月版

■ 第1章 総則 (目的や適用範囲など)

■ 第2章 採用、異動等 (採用手続や試用期間など)

■ 第3章 服務規律 (服務規律内容やハラスメントなど)

■ 第4章 労働時間、休憩及び休日 (週休2日制/変形労働時間制)

■ 第5章 休暇等 (有給や慶弔休暇など)

■ 第6章 賃金 (基本給や各種手当、計算方法、昇給、賞与など)

■ 第7章 定年、退職及び解雇 

■ 第8章 退職金

■ 第9章 無期労働契約への転換

■ 第10章 安全衛生及び災害補償 (健康診断など)

■ 第11章 職業訓練

■ 第12章 表彰及び制裁 (懲戒の種類や事由など)

■ 第13章 公益通報者保護

■ 第14章 副業・兼業

就業規則の「別規定化」について

就業規則の作成方法としては、いわゆる「本則」には主要な規定だけを定め、詳細な内容については「別規程」として定めることができます。他にも、職種別、雇用形態別に就業規則を作成することや、賃金規程や育児介護休業規程や退職金規程などの付属規程別に分けることも可能です。

これらの方法で就業規則を作成しておけば、例えば、賃金に関する規程について小さな修正があった場合でも、別規程化していた賃金規程のみを修正して届け出れば足りるようになるため、就業規則全体に変更を加える手間がかからず効率的です。

就業規則作成支援ツール(厚生労働省運営サイト)

2016年11月1日に厚生労働省より、「スタートアップ労働条件」サイトが開設されました。2019年3月29日には、同サイト内にて「就業規則作成支援ツール」を公開しております。

この支援ツールは、WEBを活用して就業規則を作ることができるものであり、モデル就業規則の規程例や作成上の注意を参考にして、入力フォームから必要項目を入力・印刷することで、労働基準監督署に届出が可能な就業規則を作成することができるものとなっています。また、ユーザー登録をしておくことにより就業規則の入力データを保存し、過去に登録したデータを呼び出して書き換えることができます。

章や条の追加や削除、そして並べ替えも可能であり、WEB上で指定することにより章や条の連番が自動的に変更される仕組みになっています。作成するときには、条ごとに「作成上の注意」を確認することになっており、条文の意味も理解できる仕組みになっています。

あくまでもモデル就業規則の雛形であり、必要な項目はユーザーの入力が必要となっている点を理解して使うとともに、一般的な内容であることを前提に利用する必要があります。なお、作成した就業規則はPDFでダウンロードできる仕組みです。

参考画面

就業規則の作成・届出手続き

就業規則の作成が完了したら、以下①~③の手続きをする必要があります。

・労働基準法第89条 (就業規則の作成と、行政官庁への届出)

・労働基準法第90条 (労働組合または労働者の過半数代表者の意見聴取)

・労働基準法第106条 (就業規則の周知)

①【意見書の取得】

労働基準法90条1項によると、使用者は、就業規則を作成・変更するにあたって、労働者の過半数で組織する労働組合(これがない場合には労働者の過半数を代表する者)の意見を聴かなければなりません。この意見聴取義務に違反した場合、使用者には30万円以下の罰金が科されます(労基法120条1号)。

■「労働者の過半数を代表する者」とは
意見聴取の対象となる「労働者の過半数で組織する労働組合」とは、事業所の労働者の過半数が組合員となっている労働組合のことをいいます。また、このような労働組合がない場合に意見聴取の対象となる「労働者の過半数を代表する者」とは、管理監督者以外から民主的な方法によって選ばれた、当該事業所に在籍する労働者の代表を指します(平成11年1月29日基発45号、平成22年5月18日基発0518第1号)。

この“当該事業所に在籍する労働者”には、過半数代表者には選任され得ない管理職も含まれます。また、正社員用の就業規則の作成・変更をするケースでも、パートタイマー・アルバイト・嘱託・契約・出向社員等が労働者の母数に含まれることからもわかるように、これには当該就業規則の対象者以外も含まれるため、注意が必要です。

過半数代表者の選出方法は使用者が決定できますが、労働基準法施行規則で定められた以下(1)、(2)の要件を満たす方法でなければなりません。

(1) 過半数代表者の選出を明らかにしたうえでの選任であること
(2) 使用者の意向に影響されない、民主的な方法であること

■民主的方法の例:
・ 挙手
全労働者が出席する場で「今年度の労使協定を締結する労働者代表は〇〇さんでよろしいですか」と支持を挙手で示す方法です。
・ 回覧
労働者代表を選出する目的が明示された文書を回覧し、同意する場合は署名、押印を求める方法です。
・ 選挙
労働者代表を選出する旨を明記した文書を事業場内の掲示板などに貼り、期日を設けて立候補者を募ります。立候補する者がいない場合は、期日を設けて、適任者を推薦してもらいます。立候補・推薦にかかわらず、投票、挙手などの方法で候補者の信任を問う方法です。

■「意見を聴く」とは
労働基準法90条にいう「意見を聴く」とは、“意見を傾聴する”ことを指し、同意を得ることまでは意味しません(昭和23年3月15日基収525号)。したがって、前述の労働組合または過半数代表者の意見は、必ずしも賛成意見である必要はなく、たとえ反対意見であったとしても、使用者が当該意見に拘束される等、就業規則の効力に影響が及ぶことはありません。

賛成意見であれ反対意見であれ、労働者代表の署名または記名押印がある意見書が添付されていれば、就業規則の届出は受理されます。

■事業所ごとの意見聴取について
就業規則は、事業所が複数存在する会社においては、原則として常時10人以上の労働者を使用する事業所ごとに作成し、それぞれを所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。したがって、意見聴取も事業所ごとに行う必要があります。

【就業規則の届出】

労働基準法施行規則第49条より、「常時十人以上の労働者を使用するに至つた場合においては、遅滞なく、就業規則の届出を所轄労働基準監督署長にしなければならない。」とされています。届出をする際は、以下の書類の提出が必要となります。

■提出書類
1. 就業規則
2. 意見書 ※
3. 就業規則(変更)届 ※
4. 就業規則本社一括届出対象事業場一覧表 ※
(注)一括届出制度は、一括して届け出る本社の就業規則と本社以外の事業場の就業規則が、同じ内容であるものに限り利用することができます。
※厚生労働省 東京労働局の様式のリンクとなります。

■届出方法
・電子申請での届出
e-Gov(総務省管轄の行政情報のポータルサイト)からの申請

・郵送での届出
・窓口への届出

※郵送・窓口共に、書類での提出の場合は、各2部必要となります。(1部は、提出用でもう1部は会社の控えとして受付印を押されて返却される分となります)

③【就業規則の周知について】

就業規則は作成後に従業員の過半数代表者から意見を聴いたうえで、労働基準監督署に届け出て、その内容を従業員に周知することが義務付けられています(労働基準法第106条)。周知がされていない就業規則は多くの裁判例で無効とされていることから、就業規則の作成後に正しく周知することは非常に重要です。以下は、周知が否定された裁判例です。

■ PMKメディカルラボ事件(東京地判平30・4・18)
【概要】
本件は、Y社の従業員であったXらが、Y社に対し、労働契約に基づき、時間外労働等に対する未払割増賃金+遅延損害金、付加金の支払を求めた事案です。

【判決抜粋】
会社説明会や転籍時に固定残業代につき十分な説明がされていない可能性があり、また、Xらの労働契約書が作成されていない状態にあり、さらに、就業規則の周知については、本社に備え置かれているだけで、各店舗には備え置かれていませんでした。労働契約法第7条にいう、周知とは,実質的に見て事業場の労働者集団に対して当該就業規則の内容を知りうる状態に置いていたことが必要とされています。当事件では、就業規則の有効性は否定され、未払い残業代の請求が認められています。

■就業規則の周知方法例:
(1) 各事業所(支社、営業所、店舗など)の見やすい場所への掲示
(2) 書面で従業員全員への交付
(3) 電子媒体に記録し、それを常時パソコンのモニター画面等での閲覧

当事務所のサポート

就業規則の作成や届出の手続きについては、インターネット上でのひな形や就業規則作成支援ツールなどで簡易的に自社向けの就業規則を作成することができます。ただし、自社の特徴に対応するものや、法改正対応、必要手続きなどは専門性が求められます。就業規則の作成や変更などでお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。

初回相談は無料です。
【当事務所でできること】
・就業規則作成
・諸規程の作成
・就業規則・諸規程の変更

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